会社の役員報酬を気軽に変更するのは危ない! 役員報酬の規制を知っていますか?【343】

もぐら叩き

イオン天童トリックアート展にて

一般の方は、中小企業の社長などへ支給する役員報酬の規制を知らない方が多いと思います。

とくに個人事業の法人成り(個人事業の会社化)をされた社長さんは、個人事業時代の規制のゆるさを経験されています。

そのため自分の会社なんだから、いつでも自由自在に会社の役員報酬金額を増やしたり減らしたりできると考えていらっしゃる方が多いように感じます。

しかし法人税法上、そんなことはありません。
法人成り(会社化)により支給できるようになる役員報酬は厳しく規制されています。

そこで今回は、法人税実務に携わる者なら誰でも知っている役員報酬の規制についてのお話。

この記事で、一般の方の会社の役員報酬規制への理解が深まれば!と思って書きますね。

役員報酬規制の趣旨(目的)

法律によって役員報酬規制の趣旨(目的)が違うため、法律ごとに分けて説明します。

会社法における規制の趣旨

会社法は役員が自分で自分の役員報酬を決めてしまうという、いわゆる「お手盛り」を防止するために役員報酬規制を設けています。

なぜ役員が自分で自分の役員報酬を決めることが問題なのかというと、役員自身が自分の懐に入る報酬額を不当に高くして、会社財産に不利益を与えないとも限らない、という考えで規制をしています。
そのため、原則として、役員報酬額の決定は株主総会で決めることにしています。(株主にチェックさせるため。)

しかし、この規制は株主と経営者(役員)が別人の場合を想定しているため、株主と経営者が同一人物(同族も含む)であるほとんどの中小企業にとっては、実質的な意味はありません。

株主と経営者が同じオーナー企業にとっては、役員自身が自分の懐に入る報酬額を不当に高くして、会社財産に不利益を与える可能生はほとんど考えられないからです。
そんなことしてもオーナーに何のメリットもありませんからね(笑)

法人税法における規制の趣旨

法人税は意図的な利益操作によって法人税等の金額が操作されることを防止しています。

現在進行中の事業年度の業績を見ながら、
「今期は例年以上に利益がでているな。」
「このままでは法人税等が高額になりすぎてしまう。。。税金払いたくないな。。」
「そうだ! 今月から決算月まで、役員報酬を増額して利益をおさえ、税金を少なくしてしまえ!」
という行動を防止するための規制です。

大企業では、株価維持・信用維持のため、粉飾決算をして税金を多く払ってでも利益を過大に見せようとする傾向があります。
反対に中小企業では税金を払いたくないから経費を増して利益を少なくしようとする傾向があります。

そのため中小企業が注目すべきは、会社法の規制よりも法人税法の規制ですね。
法人税法では利益操作による税額操作を防ぎたがっているんです。

今期の業績をみながら利益操作ひいては税額操作を防ぐために、原則として、毎月同額の役員報酬でなければ経費として認めないとこととしています。

仮に役員のAさんの役員報酬月額は100万円と株主総会で決定した場合、それを次の決算月まで継続しなければなりません。
決算月までの期間でAさんの役員報酬を増やしたり減らしたりすることはできません。
毎月の役員報酬額を固定化することで意図的な役員報酬操作による税額操作を防止しています。

役員報酬(定期同額給与)を変更できる場合

なるほど、法人税法は役員報酬を利用した税額操作を防止するため、毎月の役員報酬額を固定化を要求していることは理解した(定期同額給与)。

そうは言っても、会社は業績が良いときも悪いときもある。1度決めた役員報酬額を未来永劫、ずっと変更できないのは問題あるのではないか?

はい、その通りです。

そこで法人税法は、役員報酬額の変更を利益操作・税額操作に使えない場合に限定して、その変更を許可しています。

その限定的な場合は①~③のいずれかです。

①通常改定
②臨時改定事由
③業績悪化改定事由

①通常改定

その事業年度の期首から3ヶ月以内であれば、株主総会等で役員報酬額の変更をすることができます。(3月末決算会社であれば6月末までに)

事業年度が開始して3ヶ月以内に決定した役員報酬額であれば利益操作のおそれがないだろうという趣旨です。

事業年度開始3ヶ月以内で、その事業年度の利益状況(業績)はほとんど分かりません。
確かに利益操作には使えませんね。規制のが効いています。

②臨時改定事由

その事業年度において(その事業年度の期首から3ヶ月を超える時点)、法人の役員の職制上の地位の変更、その役員の職務内容の重大な変更その他これらに類するやむを得ない理由がある場合に、株主総会等で役員報酬額を変更することができます。

やや抽象的な表現なので具体例を挙げておきます。
・次の定時総会までの間に社長が退任して、臨時総会により副社長が社長に就任する場合
・合併によりその役員の職務が大幅に変更される場合
・会社やその役員が起こした不祥事により役員報酬の一定期間の減額で社会通念上相当と認められる場合
・2ヶ月間の病気入院のため職務執行できない傷病手当金支給期間の減額改定の場合

①の通常改定よりも、今期の決算日に近づいてからの変更であり、利益操作に利用される可能性が高いため、かなり客観的で説得力のある変更理由が求められています。

したがって、前述のような客観的理由がないかぎり、役員報酬額を変更することができません。

③業績悪化改定事由

その事業年度において法人の経営の状況が著しく悪化したことその他これに類する業績悪化改定事由があれば役員報酬額を変更することができます。

これまた抽象的なので、具体例を示します。
・株主との関係上、役員の経営責任追及から役員報酬額を減額せざるを得ない場合
・取引銀行との借り入れ返済リスケジュールの協議において役員報酬額を減額せざるを得ない場合
・取引先などの利害関係者からの信用・維持確保のための経営改善計画に役員報酬額を減額が盛り込まれた場合

ここで気をつけたいのは、利害関係者がからんでおり、その者たちとの関係で、役員報酬額を変更せざるを得ないという状況が必要になっている点です。

会社が利益操作を目的に、主体的に役員報酬額を変更しているのではない点に注意してください。

気軽に(安易に)変更することがないように

ここまで、ながながと法人税の役員報酬規制を書いてきました。

私が、このブログで言いたいことは「法人税の規制があるため、気軽に(安易に)会社の役員報酬を変更しないようにしてください!」という1点につきます。

通常改定を除く、役員報酬の変更については、税務リスクをともないますので、税理士や税務署など専門家のアドバイスを受けるようにしていただければと思います。

顧問税理士がいる場合でも、役員報酬の変更については事前相談をお願いします。
事後報告だと手遅れになり救済できない可能性がありますので。。。

以上です。また明日!

まとめ

・役員報酬を利用した利益操作・税金操作を防止するため法人税法に規制あり
・役員報酬を変更できる期間・理由は限定されている
・法人税の規制あるため会社の役員報酬を安易に変更しない
・会社の役員報酬を変更するなら専門家に事前相談するとよい

おまけ

【本日の成長】

法人税法の役員報酬規制についてブラッシュアップ

【編集後記】

午前中は家事やら1週間分の買い出しやら。
午後から夕方まで仕事。
明日はセミナーの原稿を進めなければ。

【ムスコログ】

幼稚園の夏休みが終わり、2学期の初日でした。
毎年のことですが、息子の幼稚園ではこの日にスイカ割をします。
今年は棒がスイカにうまくヒットしたと喜んでいました!

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